2015 モンタージュ2

モンタージュ2_戸建住宅

敷地は、千葉県東金市の山深い里山の村落に位置する。敷地東にすぐ山を背負い、山から流れ出る水が敷地地盤下を通っている。四方を山に囲まれるため、水はけが悪く、千葉にあって寒暖の差が激しい。
施主は65歳の娘と89歳の母。核家族といった一般的な家族像からはずれる。歳月を重ねていくことによる身体的変化に対応出来るような機能配慮と、母娘が個として自立し、同時に相互に依存出来るような空間プログラムが必要とされた。
広い敷地を持て余すため、敷地の真ん中に出来るだけ大きく建物を配置することを求められたことから、正方形の平屋をプロットすることとした。人工地盤を地面から1mほど上げて計画し、湿気溜まりである床下、敷地を風通りの良いものとした。これはコンクリートの基礎立ち上げにより分散的に人工地盤を支持し、鉛直荷重のみを外周部の50Φのスチール無垢材が受け持つ。
人工地盤の上部に木造軸組の平屋をのせ、軒の深い方形屋根で覆った。方形屋根は内部においてその勾配により空間決定の要素ともなっており、棟に柱や束を設けずに隅木のみで構造を担保している。
平面計画は、図式的に決定している。中心にリビング・ダイニング、この四周を風車状にふたつの個室、水廻り、玄関土間、インナーテラス、バルコニーがガラス框戸を境界にして配置されている。框戸の開閉で各室はフレキシブルに閉じ、また開く。
視覚的には中央のリビング・ダイニングからガラス越しに周辺部の部屋を通り、開口部を通じて外部環境へ注ぐ。これは一望監視的なシステムでなく、生活シーンを重ね合わせるモンタージュとして機能する。
外壁面の開口内法高は1800mmであり、この上部から勾配天井が建物中央へ上る。外光は間接光となってこの天井をなぞるように建物中央まで照らす。

形態は、空間は、あるいは視覚は、厳密に幾何学的に、また様々な建築言語の引用により決定されている。自立した方形の屋根は篠原一男の『から傘の家』が初期イメージであり、空間の気積は、吉村順三や清家清の住宅に負うところが多い。

形態においては、基壇、列柱、ペディメントに端を発する西欧的「美」の三層の構成、特にル・コルビュジェのサヴォア邸のプロポーションを意識化している。また、里山という自然と人の営みの美しい融合に対して、1991年のクリストのアンブレラ・プロジェクトを引用し、カルチャーとネイチャーの対比性を用いて環境にプロットする方法を選択した。平面プログラムは、村落共同体や家族幻想が解体されていく過程における新たな共同体を包摂し、施主の記憶の継承として民家の田の字プランを変形して再度取り込むことを試みた。

所在地 / 千葉県東金市
主要用途 / 専用住宅
構造 / 木造在来工法+鉄骨・コンクリート基礎
構造設計 / 桑子建築設計事務所 桑子亮
施工 / 仲佐建築工房 仲佐誠
写真 / Smart Running 小泉一斉