2017 おとなりさん おとなりさん デイケア+ショートステイ+アパート 藤沢市にある小規模多機能型居宅介護施設の新築である。同敷地内には、グループホーム「結」と小規模多機能型居宅介護施設「いどばた」、「おたがいさん」があり、この機能を拡張する目的で今回「おとなりさん」が計画された。 小規模多機能型居宅介護施設とは、1・デイサービス、2・訪問介護、3・ショートステイの三つのサービスを基軸として、認知症の高齢者の日常をサポートする拠点となる建築である。同施設は、藤沢モデルと呼ばれる、全国的にも注目を浴びる認知症高齢者介護のシステムで運用されている。同施設を運営する「株式会社あおいけあ」の代表である加藤忠相さんは、認知症高齢者施設を物理的に閉じないこと、利用者が近隣住民、引いては社会との関係の中で日常を過ごせることを目的化している。 建築においては、外部に対して視覚的にも空間的にも開放すること、利用状況によって部屋をフレキシブルに仕切ることが求められた。また、同施設機能に隣接して誰もが利用できる食堂が設置された。この境界は、引戸によって分節されるが、ショートステイ利用時以外は完全に開け放たれ、それぞれの利用者が相互に関係を結ぶようになっている。 2階は、多様に利用することを想定した大きなテラスと、これに面して3住戸と1階の食堂から吹き抜けで連続する多目的室がある。各住戸は、一人暮らしを想定したものだが、1階を利用しながら単身で住む高齢者、学生などの居住を推奨しており、月30時間のボランティアによって家賃を下げるように設定されている。住戸のひとつは、施設へ訪問して散髪したりお茶を入れたりする美容師とバリスタが借りて、現在珈琲店が開設されている。多目的室は、近隣の子どもたちの社交場として、また子育て中の父母の情報交換の場などに活用されている。 同施設は、認知症高齢者のみの利用を想定したものと異なり、老若男女誰もが気軽に訪問し、日常の延長として施設利用を行なえることが目指されている。これにより、高齢者福祉という、ともすれば社会から断絶しやすい状況を打破し、社会との関わりを確保しながら「小さな村」とでも言うべき環境が作られている。 ここでは、多様な機能空間を建築的にまとめるために、「大きな傘」と我々が呼ぶ大屋根を用いて、全体を統合している。しかしこの屋根は、完全に閉じることなく、各機能諸室が関係を強化しながらも、見え隠れする操作をすることで、利用者の居場所、居心地の良い環境づくりを目指している。施設に鍵をかけない、運営側のタイムスケジュールはなく、利用者の意思に応じて入浴したり、料理をしたりもできる。近所の小学生も自由に施設に出入りして、高齢者と遊んだりする。スタッフは子連れで出勤して、利用者に子どもの面倒を見てもらったりしている・・・。 我々設計者は、時に「多様な場所をつくる」ということを言う。それは、画一的で均質ではない居場所の多様性を生むことを意味している。しかしこの施設計画では、はじめから多様な人々が集うようなソフトが、あるいはプログラムと言ってもいいが、用意されていた。設計は意図的に多様な場を作るのではなくて、多様な人々がごちゃごちゃと集ってもきちんと整理されて、機能する建築をつくることを求められていたのである。 この建築は、小さな村落共同体と言っても良いし、もしくは疑似家族を包摂する大きな傘と言っても良い。重要なのは、人が如何なる状況にあっても社会とつながっていることであり、そうしたソフトによる思考をハードとして実体化する手腕が我々設計者に求められているのであれば、ソフトとハードは、地続きであると考えなくてはならないと思うのだ。 所在地 / 神奈川県藤沢市 主要用途 / 小規模多機能型居宅介護施設+共同住宅 構造 / 木造 構造設計 / 桑子建築設計事務所 桑子亮 施工 / 大同工業株式会社 中西太介 写真 / Smart Running 小泉一斉
2017 おとなりさん
おとなりさん デイケア+ショートステイ+アパート
藤沢市にある小規模多機能型居宅介護施設の新築である。同敷地内には、グループホーム「結」と小規模多機能型居宅介護施設「いどばた」、「おたがいさん」があり、この機能を拡張する目的で今回「おとなりさん」が計画された。
小規模多機能型居宅介護施設とは、1・デイサービス、2・訪問介護、3・ショートステイの三つのサービスを基軸として、認知症の高齢者の日常をサポートする拠点となる建築である。同施設は、藤沢モデルと呼ばれる、全国的にも注目を浴びる認知症高齢者介護のシステムで運用されている。同施設を運営する「株式会社あおいけあ」の代表である加藤忠相さんは、認知症高齢者施設を物理的に閉じないこと、利用者が近隣住民、引いては社会との関係の中で日常を過ごせることを目的化している。
建築においては、外部に対して視覚的にも空間的にも開放すること、利用状況によって部屋をフレキシブルに仕切ることが求められた。また、同施設機能に隣接して誰もが利用できる食堂が設置された。この境界は、引戸によって分節されるが、ショートステイ利用時以外は完全に開け放たれ、それぞれの利用者が相互に関係を結ぶようになっている。
2階は、多様に利用することを想定した大きなテラスと、これに面して3住戸と1階の食堂から吹き抜けで連続する多目的室がある。各住戸は、一人暮らしを想定したものだが、1階を利用しながら単身で住む高齢者、学生などの居住を推奨しており、月30時間のボランティアによって家賃を下げるように設定されている。住戸のひとつは、施設へ訪問して散髪したりお茶を入れたりする美容師とバリスタが借りて、現在珈琲店が開設されている。多目的室は、近隣の子どもたちの社交場として、また子育て中の父母の情報交換の場などに活用されている。
同施設は、認知症高齢者のみの利用を想定したものと異なり、老若男女誰もが気軽に訪問し、日常の延長として施設利用を行なえることが目指されている。これにより、高齢者福祉という、ともすれば社会から断絶しやすい状況を打破し、社会との関わりを確保しながら「小さな村」とでも言うべき環境が作られている。
ここでは、多様な機能空間を建築的にまとめるために、「大きな傘」と我々が呼ぶ大屋根を用いて、全体を統合している。しかしこの屋根は、完全に閉じることなく、各機能諸室が関係を強化しながらも、見え隠れする操作をすることで、利用者の居場所、居心地の良い環境づくりを目指している。施設に鍵をかけない、運営側のタイムスケジュールはなく、利用者の意思に応じて入浴したり、料理をしたりもできる。近所の小学生も自由に施設に出入りして、高齢者と遊んだりする。スタッフは子連れで出勤して、利用者に子どもの面倒を見てもらったりしている・・・。
我々設計者は、時に「多様な場所をつくる」ということを言う。それは、画一的で均質ではない居場所の多様性を生むことを意味している。しかしこの施設計画では、はじめから多様な人々が集うようなソフトが、あるいはプログラムと言ってもいいが、用意されていた。設計は意図的に多様な場を作るのではなくて、多様な人々がごちゃごちゃと集ってもきちんと整理されて、機能する建築をつくることを求められていたのである。
この建築は、小さな村落共同体と言っても良いし、もしくは疑似家族を包摂する大きな傘と言っても良い。重要なのは、人が如何なる状況にあっても社会とつながっていることであり、そうしたソフトによる思考をハードとして実体化する手腕が我々設計者に求められているのであれば、ソフトとハードは、地続きであると考えなくてはならないと思うのだ。
所在地 / 神奈川県藤沢市
主要用途 / 小規模多機能型居宅介護施設+共同住宅
構造 / 木造
構造設計 / 桑子建築設計事務所 桑子亮
施工 / 大同工業株式会社 中西太介
写真 / Smart Running 小泉一斉