2009 スピンオフ

スピンオフ_戸建住宅

かつては湯河原の海沿いの栄えた商店街であった。しかし幹線道路とこれに伴い建築された郊外型の店舗によって今ではシャッター通りと化し、自動車の抜け道となっている。
施主は30代の若い夫婦と幼い息子の3人暮らし。もともとこの場所で商売をしながら暮らしていた店舗兼住宅の建替えである。店舗は現在別の場所で営まれているため、建替え後は専用住宅となる。近隣商業地域のため、敷地いっぱいに建築可能であり、2階建てでも十分に必要面積を満たすことができた。
計画のきっかけは、施主の「3階建てにすれば海が見えるかもしれない」という一言であった。我々は、敷地南面の接道部に対し、商店街のファサードの秩序を保つよう面することにした。 必要面積を単純に3層に振り分けたボリュームを建てれば、敷地北側に日の当たらない空地ができてしまう。そこで、まずは敷地いっぱいに3層のボリュームを計画し、そこから外部空間を削り取り面積を調整する。削り取るにあたり、南北にトンネルをあけ、内部と外部とが立体的に絡み合う関係をつくりあげた。
内部においては、コンパクトに納められた階段が、上下階をつなぎ、各階居室からの採光を間接的にとりこみ、メッシュ越しに現象的な光を照らす。階段の延長に配置された各室は、そこでまた様々な外部空間に対面する。
スピンオフとは「派生する」という意味である。道路から派生した横道(トンネル)は、シャッター通りの風穴でもある。商店街の秩序(リズム)を保ちながら新しい外部空間の派生をつくりだすことが、閉塞した場所に対してひとつのアクションになり得ること、事実この派生した空洞は、青年団の寄り合いの場として、お祭りの休憩所として機能し出している。
プライベートとパブリックの中間的な領域の実現が、ここにはある。

所在地 / 神奈川県足柄下郡湯河原町
主要用途 / 専用住宅
構造 / 木造
構造設計 / A.S.A 鈴木啓 金田泰裕
施工 / 株式会社 大同工業
写真 / 平井広行